携帯電話業界にいると、「我々インフラ業者は」という言説がよく用いられるように思う。

たしかに、携帯電話はもはや私たちの生活になくてはならないもの、かもしれない。
でも、「携帯電話はインフラである」と言ったときに、「はいそうですね」とは素直に頷けない違和感が私の中にある。
違和感の原因はなんだろう?
端的に言えば、インフラとしてすぐに頭に浮かぶ電気上下水道ガスと、携帯電話を同列に扱う据わりの悪さだ。
モヤモヤとしたまま、あれやこれや調べ考えた事をまとめる。

インフラってなんだ?

そもそもインフラとは何であろうか。Wikipediaによれば社会や企業の運用に必要な物理的かつ組織的な構造体、または経済活動に必要なサービス、施設を指し、一般的には道路や橋、電気上下水道、電話を指す、とのこと。

確かに、Wikipediaに示される定義に沿えば、電話も、ひいては携帯電話もインフラだろう。企業運用や経済活動には必須だから。

モヤモヤの正体

しかし私が「インフラ」から受ける印象は、人間が生活するにあたって必須のもの、というものだ。端的に言えば電気ガス水道。そこが間違ってると言えばそうなんだが、結局のところ私がモヤモヤしているのは、果たして携帯電話は電気ガス水道と同じように生活に必須のものかどうかということ。

じゃあそれで追っかけてみよう。

NeedsかWantsか

マーケティング用語にNeedsとWantsという便利な分類がある。(もう一つdemandsがあるけど割愛)

Needsとは、それなしでは人が生きられないもので、放っておいても人が買うもの。
Wantsとは、必須ではないけどあったらいいもの。

この分類で電気ガス水道、携帯電話を比べてみよう。

水道はNeedsでしょう。
ガスは?最近は電気で代替できるけれども、暖房、調理(、照明)でまあNeeds。
電気は?照明、冷暖房、調理、そのほか電化製品でNeedsでしょう。

では携帯電話は?難しいところであります。加えて携帯電話には電話という側面と、モバイルインターネット/ブロードバンドという側面があるし。

しかしここでNeedsインフラである電気で考えてみる。電気をNeedsたらしめているものは何かといえば、私たちが深く依存している数々の電化製品のためである。

電気ガス水道の歴史

ローマ時代からあった水道と比べて、電気、ガスは比較的新しいインフラである。

これまたWikipediaで調べてみたら、ガスは1810年頃、電気は1870年頃からインフラとしての利用が始まったようだ。

ガスは当初、照明として利用されたが、燃料だけに取り扱いが難しく、電気に代替された。

電気も最初は照明で使われたのだが、こちらは抜群に取り回しが効くエネルギーである。照明以外にもあらゆる分野で使われるようになった。

携帯電話の活用は始まったばかり?

電気の歴史を眺めてみると、携帯電話はWantsからNeedsの変わり目にいるように感じる。

携帯電話がモバイルインターネットになって、4Gでモバイルブロードバンドになり、電話以外での活用が始まったばかり。あと何年かして、携帯電話システムの上でいろんなサービスが花開くと、私もすっきり「はい。携帯電話はインフラです」と言えるようになるのだろうと思う。

しかし携帯電話がインフラになるには大きな障害があるように思う。有り体に言えば高すぎるように思う。

インフラ支出比較

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これは各家庭が電気、ガス、上下水道、通信に月々いくら払っているかを示す。

総世帯ではまだまだ電気が優勢だが、4人家族を見ると\15,000を超えてくる。高い。

しかし「通信」なんてくくられてるとよく分からん。

いろいろ調べてみると、移動電話通資料として月々どれだけ払っているかを世帯主年齢別かつ推移で示す統計があった。それがこちら。
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これを見ると60歳の上と下でくっきりと分かれていて(この強烈な落差には興味が湧きますな)、60歳未満が世帯主の家庭では携帯電話料金として月々1万円超を払っていることが分かる。

安価さもインフラの定義じゃないだろうか。

こういった統計をつらつら見るにですね、まだまだ携帯電話料金てすごく高いのではないかと思うのだ。

モバイルブロードバンドとしてほんのわずかしか活用できてないのに、月々1万超ですよ。電気なんてあんなに使えて1万弱。仮に電気代がいまの3倍だったらどうだろうか。

言わずもがな、携帯電話はまだまだ新しく、過渡的な時期だと思う。

しかし。少なくとも今の電気代くらいに料金をそれほど気にせず使えるようになった時こそ、携帯電話はNeedsという意味のインフラになるんじゃないだろうかと思った。

統計は下記を参照した。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/index.htm
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/kojin02.html