「こんなとこ、来るんじゃなかったですよ!」
かに雑炊は、そう吐き捨てるように言った。
かに雑炊は、枯れ葉散る秋口に、系列の子会社から人攫い同然の状態で連れてこられた若手である。
今回、彼を含む社内の若手の代表者が、取締役との懇談会に出席することになった。よくある、会社のトップが最下層の意見を吸い上げようと設定する場である。
その場で、かに雑炊が爆発した。
「訳も分からずに連れてこられて、右も左も分からない場所に放り込まれて」
「こんなプロジェクト、計画立てた時点でコケてんのに、無理矢理期日に合わせようとボロボロになるまで働かされて、当然間に合わうわけないから評価も悪くて」
「負け馬の尻に乗らされて」
「こんなとこ、来るんじゃなかったですよ!」
乾杯から間もなく、また宴席が盛り上がる前の状態で、かに雑炊はこれらの事を素面で言い切った。
場が冷め切ったのは言うまでもない。取締役一行も無言である。
もうしばらくすると、4月。人事異動の季節である。
かに雑炊の未来に幸あれ。
ちなみにかに雑炊とは、以前の飲み会で酔っぱらって、かに雑炊の鍋に足を突っ込んだことからついたニックネームである。